血液と接触する医療機器に求められる性質とは?

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最近、化学の勉強と並行して日本企業の明細書を読んでいます。面白いものが多く、今後はブログで、面白かった発明をご紹介していきたいと思います。今回ご紹介するのは東レの「抗血栓性材料」。きっかけは、「イオン結合」が登場する明細書を探していたときです。

タイトルだけ見ると医薬、医療機器ですが、化学知識が求められる内容で、大変勉強になりました。

まず、体内に一時的に留置する医療機器として思いつくものは、カテーテル、ステント、縫合糸、人工血管、人工弁、人口肺など。

カテーテル、ステントはこちらがイメージしやすいと思います。カテーテルを血管に入れ、プラークのある場所で、バルーンと言われる風船を膨らませることでステントを広げ、血管を拡張させます。

出典:coronary angioplasty

カテーテル、ステントが入るのは血管内ですので、血液との接触が避けられません。血液と接触する医療機器の表面には、血液が凝固してきます。このままにしておくと、医療機器の機能が低下するおそれがあるため、血液と接触する医療機器の表面には、血液が凝固しないよう、高い抗血栓性が求められます。

そこでとられる手段として、医療機器の表面(基材の表面)に抗凝固剤であるヘパリンまたはヘパリン誘導体を塗布または結合させます。


出典:Biology

写真の上図は、ヘパリン処理がなされていないもの。カテーテル表面に血液が凝固してしまいます。
下図は、ヘパリン処理を施したもの(水色)。

具体的にどのように、基材にヘパリンを結合させるか?
が化学が登場するところでとても面白かったのでご紹介します。

まず、負電荷の官能基を有する基材に、正電荷の官能基を有するポリマーを結合させ、
次にヘパリンを結合させます。ヘパリンは負電荷の官能基を有するため、既に基材に結合されたポリマー(正電荷の官能基を持つ)と結合します。

イメージは雑ですがこんな感じ

もう少しわかりやすいのがこちら

出典:Research GateScience Direct

ここで化学と関連して面白い点は、
基材とポリマーの結合は共有結合で、
ポリマーとヘパリンの結合はイオン結合ということ。

ポリマーはカチオン性を有するため、細胞毒性を発現する恐れがあり、血液などの体液中に溶出しないよう、共有結合させる、ということでした。

原子が互いに手(電子)を出し合って結合する共有結合は、プラスとマイナスの静電気力で引き合って結合するイオン結合よりも、結合する力が強いので、体液中に溶出してほしくないポリマー部分は、基材と共有結合させる、ということなのですね。

一方、ヘパリンは血液中に溶出して、抗血栓性を発揮できる、というわけですね。

ヘパリンが溶出するイメージ

出典:Research Gate

これまでにもヘパリンとイオン結合する官能基を有するポリマーを使用する、という発明はなされているようですが、正電荷の官能基と負電荷の官能基の比率について検討している発明はなかったようです(この特許以前のお話に限定して)。

また、基材表面に直接ヘパリンを結合させればいいのではないか?という疑問もでてくると思います。これは自分への今後の課題なのですが、基材に直接ヘパリンを付着させると、血栓形成は防ぐことはできるものの、内皮細胞の接着、増殖を逆に妨げてしまうようです。生体内に留置する医療機器に求められる性質について、もっと深掘りしたいところです。

国際公開番号:WO2016/190407

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