仕事

中国語翻訳でよくある誤訳:臨床試験と治験

私は以前、新薬開発の仕事をしていました。

具体的には、製薬企業が開発した新薬を患者さんに飲んでもらい、安全性や有効性を調べるための治験のモニター(CRAといいます)をやっていました。

新薬開発というと格好良く聞こえますが、ラボにこもって研究する、というものではなく、製薬企業が作成したプロトコール(治験実施計画書)とGCP(治験を実施するための決まり)に従って、治験が各医療機関で適切に実施されているか”チェック”する仕事でした。ですので、来ているのは白衣ではなくスーツです。

月の1/3くらいは出張で、担当する病院を訪問しては、医師に新たな安全性情報を報告したり、薬剤部や治験に関与する看護師さんに説明会を行ったり、カルテを閲覧して、プロトコールから逸脱していないか確認していました。新しく治験を始めるときは契約書などの書類もたくさんやらねばならず、モニターの仕事内容は多岐にわたるもので、楽しく仕事していました。

中国語翻訳を始めたのはこの仕事をしていた時です。出張の新幹線の中で初めていただいた仕事をしていたことを覚えています。

最初は新薬関係で中国語翻訳の仕事ができれば、と思っていましたが、この分野の中国語の仕事はあまり多くありませんでした。というのは、色々な国で同時に行う治験(国際共同試験)の場合、基準となるプロトコールが英語であることが一般的だからです。

しかし意外なことに、今年になって、プロトコール1冊丸ごとを中国語に翻訳する仕事を受けたり、再度打診をいただいたりしました。

前置きが長くなりましたが、本題の「治験」と「臨床試験」について。

この言葉は法規制の中にも登場しますが、間違って翻訳されていることが多いように思います。

治験とは、新薬として製造、販売の承認を規制当局から得るために実施する臨床試験。

臨床試験とは、患者や健康な人を対象に実施するもの。

つまり、臨床試験の中に「治験」が含まれているのです。

ややこしいのが、中国語の場合、臨床試験のことを「临床研究」、治験のことを「临床试验」といいます。そのまま翻訳すると、中国語でいわんとするところの「治験」が、「臨床試験」となってしまうのです。(治験を「研究」ということもあります。こういう時はドキュメントの種類と文脈で判断)。

GCPに関する中国語の専門書(药物临床试验与GCP实用指南 by 北京大学医学出版社)には、「临床研究=clinical study」、「临床试验=clinical trial」と明記されています。
本文中にも
临床试验包括下列方面
-为获得新药证书和生产批文而进行的临床研究」
と記載があり、治験(日)临床试验(中)であることがわかります。

福井大学医学部付属病院の資料にも同様のことがクイズ付でかかれています。

新薬開発をしている人からすれば、臨床試験と治験の違いは当たり前のことなのですが、この分野に関わったことのない方からすれば、臨床試験と治験の違いはわかりづらいのでしょうね。

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