勉強

ボルタ電池は生きている 

今回はとても面白い特許をご紹介します。

ボルタ電池といえば、実用化されなかった最初に発明された電池ですが、ボルタ電池の原理が現代においても私たちの身の回りでいかされていることをご存知でしょうか?意外なところで使われているボルタ電池の原理。その例をいくつかご紹介したいと思います。

ボルタ電池とは?


出典:雑科学ホーム

まず、ボルタ電池について簡単に触れておきます。

ボルタ電池は、負極に亜鉛板、正極に銅板、電解質に希硫酸が使われています。イオン化傾向(イオンのなりやすさ)が亜鉛>銅のため、亜鉛がイオン化して、電子を放出します(青丸)。この電子が、負極→正極へと移動する現象が電流です。(電流が正極→負極へ流れると定義されたとき、まだ電子の存在が発見されていなかったため、電子の流れる向きと電流の向きは逆になっています)。

現代の電池の構造からすると、ボルタ電池はとてもシンプルな構造になっているといえます。今回ご紹介する2つの特許は、このシンプルさ故に、応用できたのではないかと思われるものでした。

トンネルの漏水検知システムに活用されるボルタ電池

トンネル、特に海岸付近や温泉地付近にあるトンネルは、漏水により鉄筋が腐食されるリスクがあります。このような塩化物イオンを多く含む漏水は早く発見する必要があり、漏水を早期に検知するシステムとして、電気を使った検知システムなどが活用されています。しかし、電気を必要とするため、電源を交換するタイミングがメンテナンスに影響を与えてしまうという問題がありました。

ということは、電源がなくても、自己発電するようなシステムで、漏水の検知を視覚的に確認できるものがあればいいですよね。そこで活用されたのがボルタ電池の原理でした。この原理を活用することで、漏水を利用して、漏水に含まれる成分も確認でき、かつ、漏水の有無を視角により確認することが可能となったのです。

トンネルのひび割れから浸水した雨水などに含まれるNaClなどの塩類が上記装置に溶け込むと、漏水が電解液としてふるまうようになります。漏水が発生すると、使用する電極のイオン化傾向の差によって、この装置が自動的に電池としてふるまうようになるわけですね。電気が流れると、照明が光り、漏水を検知できるようになります。

電源も不要ですし、目視ですぐに確認できるのでコストや利便性も改善されているのではないでしょうか。

漏水成分にもいろいろあり、例えば、淡水、海水、酸性雨などどう見分けるか?というと、あらかじめ淡水、海水、酸性雨などの基準データをメモリに記録しておくようです。漏水が発生すると、装置から判定装置にデータが出力され、この出力データとあらかじめ記録された基準データを比較して、漏水の成分を確認できるということ。まさかボルタ電池の原理を利用して、こんなことができるなんて、と大変驚いた発明でした。

しかし、ボルタ電池の応用はこれだけではありませんでした。私たちの生体反応を利用して、医療にも応用されているのです。

カテーテル留置の確認にも応用されるボルタ電池

カテーテルの中には、鼻を介して身体に栄養を補給するために消化管に留置されるものがあります。ここで重要なのが、カテーテルが胃の中に確かに到達したか?ということ。もし胃ではなく気管や肺に入ってしまうと肺炎を誘発しかねません。

体内に挿入したカテーテルを抜き取ることなく、留置した状態で、目視で確認できる方法として開発されたのがこれからご紹介する発明です。

この発明では、胃酸を利用しています。つまり、胃酸を電解液として、先端に一対の電極を含むカテーテルを使っています。

この発明では、鼻から挿入されるカテーテルの先端に「胃液反応器」が設けられています(写真・胃の中にある四角い部分)。この先端には一対の電極が設けられていて、反応器に胃液が入ってくると、胃液が電解液(HCl)となり、胃内でボルタ電池が構成されるようになっています。ボルタ電池が構成されると、体外に出ているカテーテルにとりつけられた発光器が電流により発光する仕組みになっています。

写真一番下にはこの時起こる反応がかかれています。ここでは、負極に亜鉛板、正極に白金板が使われていますね。これは最初に発明されたボルタ電池では正極に銅板を使用していたのですが、銅板を使用すると、水素イオンを水素に還元させるのに、余分なエネルギーが必要となり、電池として使える電圧が少なくなってしまう問題がありました(起電力の低下)。銅の代わりに白金を正極に使うと起電力がそれほど低下しないため、今回の発明では銅板ではなく、白金板が使われています。

胃の中でボルタ電池を作らなくても、小型のpHセンサを使えばいいんじゃない?と思われるかもしれません。しかし、もしpHセンサを使うと、誤検知という問題が発生するおそれがあります。というのは、胃液は胃内だけではなく、食道にも存在する可能性があるためです。pHセンサは胃液に反応しますので、食道に到達した時点で、反応してしまう可能性があり、これではカテーテルが胃の中に到達したかを確認できず、誤検知してしまうおそれがあります。一方、この発明のボルタ電池では、胃ではない食道の少量の胃酸に反応しても、発電時間が胃内に比べて短いため、食道の場合と胃内の場合との発電継続時間の差を利用して、誤検知と明確に区別できるようです。

ボルタ電池の原理が現代でも医療や鉄道で利用されていることには驚きました。今回ご紹介したのは2つの特許ですが、米国ではボルタ電池の原理を応用して、胃酸で発電する原理を利用して、胃腸の出血を調べるためのバイオセンサ―が開発されたようです。まだブタでの実験のようですが、将来的には人でも使用できるようになり、内視鏡検査が不要になるかもしれませんね。

最後に

化学の勉強を通じて、歴史を学ぶ重要性を益々感じるようになりました。新しい技術を追うだけでなく、過去の歴史から技術の流れを理解できる特許翻訳者でありたいと思います。今回の記事もボルタに敬意を表して。

参考:
JP2013-167552A(JR)
JP2015-196040A(ニプロ)

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