高校化学で特許を読んでみよう レアアース(希土類元素)の分離回収方法 by日立製作所

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特許明細書を読んでみると高校化学を複合していることに気付きます。

そこで、今日は日立製作所の特許明細書の一部を、高校化学を使って読み解いてみます。

高校生の方、大学の化学の授業がつまらないと感じている方、大学を退学しようか迷っている方に読んでいただけたら嬉しいです。化学は面白いんですよ!!

日立製作所の特許の主役は「希土類元素」です。

希土類元素とは?

下の周期表で赤枠のものが希土類元素で、今回の特許に登場するのは青丸で囲んだイットリウム(Y)、ネオジム(Nd)、ジスプロシウム(Dy)です。

希土類元素は、電気自動車、ハイブリッド自動車、省エネエアコン、鉄道システム、風力発電システムなどの重要なデバイスである、モータ、発電機に広く使用されています。私たちの生活に必要なものを動かす部分に使われている物質なんですね。

しかし、ネオジム、ジスプロシウムなどの希土類元素はとれる場所が偏在しており、原料を安定的に確保するために、分離回収・リサイクルする技術が求められています。今回の特許も、希土類元素を簡単に、効率よく分離回収するためになされたものです。

この特許に登場する高校化学
・酸化還元
・ルシャトリエの原理
・化学平衡
・蒸気圧
・蒸留
・沸点

この特許は4つのステップで希土類元素を分離回収しています。

第1ステップ

まず、ネオジム三塩化物(NdCl3)とジスプロシウム三塩化物(DyCl3)にイットリウム金属(Y)を添加します。

この時、このような反応が起きます。

酸化還元反応ですね。ここでは、Yが還元剤(自分が酸化される)になっていることがわかります。
(ここでは便宜上、化学平衡の式で表しています)

Yを添加すると、上の反応に示すように化学平衡状態になります。

レアアースの収率を高めるために、できればいずれの反応も右方向へ進めたいところです。
どうすればいいでしょうか?

ここでルシャトリエの原理が登場します。
Yを大量に添加すると、過剰なYによる濃度変化を打ち消す方向へ平衡が移動しますね。Yを過剰に添加することで、反応を右方向に進めることができます。明細書では明記されていませんが、ルシャトリエの原理が登場しました。

第2ステップ

上記で化学平衡状態に達した後、真空排気します。
最初の図をもう一度見てみます。


この過程で、上の②でYを添加後に生成されるジスプロシウム塩化物(DyCl2)は減圧環境下では不安定で、不均化反応によって、次のように金属ジスプロシウム(Dy)とジスプロシウム三塩化物(DyCl3)に分解されます。


不均化反応とは、2個以上が互いに反応して2種類以上の異なる生成物となる反応をいいます。

第3ステップ

次にこの発明のポイントである、「固固分離」と「固気分離」がでてきます。固固分離とは文字通り、固体と固体を分離し、固気分離は固体と気体を分離することです。

化学平衡状態に達し、真空排気した後、次に1000~1100℃で真空蒸留します。ここで蒸気圧、沸点が登場します。


※図では、化学平衡状態に達したときに存在していた「NdCl3」は省略しています。
※第二ステップでDyCl2は不均化反応によりDyCl3になったため、「DyCl2」も省略しています。

まずNdCl2(オレンジ)に対して、YCl3(水色)とDyCl3(緑)の蒸気圧が相対的に高いことを利用して、YCl3(水色)とDyCl3(緑)を蒸留します。
蒸気圧については、液体表面から飛び出そうとするときに、周りの空気を押しのけようとする力と私はイメージしています。

この工程で、蒸気圧が高いYCl3(水色)とDyCl3(緑)は蒸留により昇華し、低温にされた内壁上に凝縮され、分離されます。その結果、NdCl2(オレンジ)、Y(ピンク)、Dy(黄色)が残渣として残ります。これが真空蒸留により固気分離する工程です。

真空蒸留とは?

ここで、真空蒸留が登場しました。
沸点が高く常圧で蒸留が難しい物質の分離に使われる蒸留を真空蒸留といいます。操作温度を下げて、物質の分解、重合を防止するために行われます。

YCl3(水色)とDyCl3(緑)の沸点に着目してみました。

YCl3(水色)の沸点:1507℃
DyCl3(緑)の沸点:1530℃
(Wikipediaより)

どちらも沸点が高いですね。このように沸点の高い物質を分離する場合、圧力を下げると沸点が下がるという現象を利用した真空蒸留が利用されます。

圧力を下げると沸点が下がるのはなぜ?

圧力を下げると沸点が下がるイメージは、こちらを見ていただくとわかりやすいと思います。

真ん中が通常の場合。右側は圧力を上げた場合、左側は圧力を下げた場合です。
圧力を上げると、外から水面にかかる力が増し、水中の分子が外へ飛び出すためにはよりパワーを必要とします。
一方、圧力を下げると、外から押さえつけられる力が弱まるため、分子が外へ飛び出しやすくなります。圧力を下げると沸点が下がる理由について、私はこのようにイメージしています。

第4ステップ

最後に、残渣として残ったNdCl2(オレンジ)、Y(ピンク)、Dy(黄色)を形状、サイズの違いを利用して分離回収します。固固分離する工程です。

明細書にはほかにも細かい反応について記載がありますが、一部をご紹介しました。

酸化還元、蒸気圧、沸点、化学平衡などがさらっと登場しているので、化学の面白さを発見する良い素材だと思いました。ルシャトリエの原理など、明記されていなくても、発明の中にその概念が存在するのも面白いですね。

今回ご紹介した特許
【発明の名称】希土類元素の分離回収方法
【公開番号】特開2013-139617A
【出願人】日立製作所
【発明者】山本浩貴、沢井裕一、宮田素之、村上元、宇田哲也

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